ON-ART社が開発した恐竜型メカニカルスーツ「DINO TECHNE」と独自の演出手法により、恐竜が生きて実在するかのような世界観を体験出来る日本発の恐竜体験プロジェクト「DINO-A-LIVE」。
中生代にタイムスリップ? リアル恐竜ライブショー、開発者の執念
集英社オンライン / 2022年7月24日 10時1分
恐竜が実在するかのような世界観を体験出来るライブショー「ディノアライブ・プレミアム タイムダイバー 夏休みスペシャル(https://www.timediver.jp/)」がこの夏、IHIステージアラウンド東京(豊洲)にて開幕する。世界で唯一の360度回転型劇場に登場する、本物そっくりな恐竜はどのように生まれたのか、ON-ART代表の金丸賀也さんを取材した。
恐竜が実在するかのような世界観を体験出来るライブショーとして世界中で話題……!
DINO-A-LIVEとは
ON-ARTによるDINO-A-LIVE(提供:ON-ART)
恐竜のリアルでダイナミックな動きを表現する独自の技術は「第4回ものづくり大賞」を受賞。世界14カ国で特許を取得しているほか、クウェート王政府からの招聘(しょうへい)でクウェート王立博物館のオープニングセレモニーに出演するなど、世界的にも高い評価を受けています。
人気のユタラプトル(提供:ON-ART)
そんなON-ART社を率いるのは金丸賀也さん。東京藝術大学デザイン科でCGなどの映像技術を学んだ後、NHKで大河ドラマなどのセットデザイン及び建て込みを担当した後独立。博物館での壁画制作や企画展の仕事を担当するうちに恐竜の魅力と出会ったといいます。
リアルな恐竜が生まれた背景
――早速ですが、DINO-A-LIVEとはどんなものなのでしょうか。
金丸代表(以下同) 一言でいえば「今は存在しない恐竜をまるで生きているような形で現在に再現しよう」というプロジェクトです。もともとは「恐竜が今生きていたらどんな感じがするんだろう?」という素朴な疑問から始まっており、それをみんなで体験できたらと考えました。
客席にまで迫るティラノサウルス(提供:ON-ART)
――DINO-A-LIVEの構想はどのようにして生まれたのでしょうか。
NHKを退職後、学生時代から熱中していたバンド活動を精力的に行っていたのですが、バンド1本で食べていくことは難しく、鉄工所でアルバイトをしたり、デパートのショーウィンドウの背景を手掛けたり、博物館で造形や壁画の制作を請け負ったりしていました。
いろいろなアートの現場に顔を出す中であるとき、博物館での企画展の展示を担当させてもらうことになったのですが、当時は「企画展」というコンテンツに人気がなくて、お客さんが全然来てくれなかったんです。
自然科学に興味を持ってもらうために博物館が存在していて、その魅力を伝えるために学芸員の方々も一生懸命取り組んでおられたので、「どうすれば企画展に人が来るのか」を毎日考えました。その中で、「博物館で人気のコンテンツは何だ?」「“恐竜”だろう」と。
ちょうどそのころ、原宿・国立代々木競技場オリンピックプラザ特設会場で「ジュラシックパークインスティテュート」という映画で実際に使われた恐竜のフィギュアやロボットの恐竜等を展示するイベントが開かれていたのですが、僕の中で何かが物足りなくて。ふと「もし博物館にいるようなリアルな恐竜が歩き出したら人気が出るだろうな」と思ったんですよね。これが2003年ごろのことで、DINO-A-LIVEの始まりです。
試行錯誤を重ねていた2004年ごろの金丸代表(提供:ON-ART)
――最初に作った恐竜は何だったのでしょうか。
アロサウルスです。僕はもともと恐竜マニアではないんですが、骨や骨格を見るのは好きだったので、アロサウルスは骨格を見たときにすごくきれいで恐竜らしい体をしているなと感じて、1号に選びました。
――完成まではどのくらいかかりましたか。
仕事の合間にコツコツ取り組む形だったので、約3年かかりました。最初から「人間の動きを恐竜の動きに変換する」ということを考えていたので、恐竜の中に人が入り、メカを使って表現するという構想だったのですが、このとき役に立ったのが、鉄工所でのアルバイト経験です。
美術を専門的に学んできたこともあって、恐竜の外装を作るのはそこまで大変ではなかったのですが、内部のメカに関しても自分で一から設計図を書いて、金属を削りだして組み合わせて溶接して――ということを繰り返しました。昔から美術とメカと生物が好きだったので、自動整備の本などをよく読んでおり、エンジンがどうだとか、サスペンションがどうだとか、とにかく“中身”が好きなこともあり、熱中しました。
当時は所沢の旧鉄工所を借りて恐竜制作に取り組んでいたのですが、極寒の中、新年を迎える瞬間に旋盤の機械を回していたこともあります。除夜の鐘が鳴って、旋盤の機械音が響いて――大変でしたがすごくいい思い出です。
――プロジェクトに取り組む中で壁にぶつかったとき、どのように乗り越えましたか。
いろいろありましたが、僕自身が壁を楽観的にとらえるタイプなんですよね。「できる」と思って始めて、できなくてえらい目に合うんですが(笑)。ただ「最終的にはできるだろう」と思うんですよね。
数々の困難に打ち勝って完成した恐竜たち(提供:ON-ART)
とにかく「できない」とは思わないので、ものすごい困難があったとしても折れないというのが良いところなのかもしれません。「諦めない。折れない。できないと思わない」。これに尽きます。
――DINO-A-LIVEでは現在何頭の恐竜がいるのでしょうか。
全部で33頭ほどいますね。いずれは恐竜の世界に人が紛れ込む――ということもやりたいので、同じ種類の恐竜の頭数も増やしていっています。
さまざまな恐竜が登場するDINO-A-LIVEの世界(提供:ON-ART)
――DINO-A-LIVEの中で人気の恐竜は何ですか。
ティラノサウルスとトリケラトプスは老若男女問わず人気がありますね。この2頭は、作っていても特別な感じがして生まれながらにしてスターなんだろうな、という感じがします。
人気のティラノサウルスとトリケラトプス(提供:ON-ART)
また、アロサウルスやユタラプトルも人気がありますよ。特にユタラプトルは今5頭いるのですが、動きに魅力がある恐竜なので、根強い人気があります。
金丸代表イチオシのアロサウルス(提供:ON-ART)
――現在の拠点のひとつ、立川では商業施設の「GREEN SPRINGS」でゴールデンウィークなどに恐竜のグリーティングも実施されていますよね。以前伺ったときに散歩中の犬が恐竜を見てブルブル震えていて、周囲の人がそのリアルさに感心していたのが印象的だったのですが、超リアルな恐竜を生み出すために譲れないこだわりはありますか。
恐竜が学術的に正しい姿であること。そのときそのときの最先端の研究を反映していることはこだわりの一つです。
また、人間は何かを見たときに「このぐらいの動きをするだろう」と推測・イメージできる生き物なので、そのイメージを超える動き――というのも非常に重視しています。
リアルな表現で会場を驚かせるトリケラトプスの親子(提供:ON-ART)
人間の動きを恐竜に変換するシステムをON-ARTでは「DINO-TECHNIC」と呼んでいるのですが、このシステムを使うと、8メートルのティラノサウルスも女性1人で動かせます。開発には時間がかかりますが、制作陣は常に“ON-ARTのクオリティーレベル”を意識して、限界に挑んでいます。
――いよいよ7月23日より「ディノアライブ・プレミアム タイムダイバー 夏休みスペシャル」が開幕しました。今回の見どころを教えてください。
DINO-A-LIVEのフルスイングであり、今できる最高峰を詰め込んだショー、それが「ディノアライブ・プレミアム」です。
トリケラトプスの親子(提供:ON-ART)
DINO-A-LIVEの代表的なショーではこれまで、エンターテインメントとしての狂言回しという役割で人間が登場してきたのですが、「タイムダイバー」では恐竜がメインの構成となっています。そのためごまかしがきかず、恐竜の動きだけで会場全体を中生代の世界にいざなわなくてはならないので、最高のリアルさを提供するという点に全神経を集中させています。
ある意味で分かりづらさもあるかもしれませんが、自然観察のようなショーというこれまでにないテーマなので、ぜひ会場で生の迫力を感じていただきたいです。
ユタラプトルたち(提供:ON-ART)
――金丸さんにとって恐竜とは、タイムダイバーとはどんな存在ですか。
これまで自分がやってきたことすべてを重ね合わせたものですね。
例えばタイムダイバーの音楽はバンド時代のギタリストにオリジナルで制作してもらっていますし、CGや映像や舞台セットや旋盤や溶接など、僕が広く浅くやってきたことによって全体が見通せるようになったからこそ生まれたショーなのだと思います。
「何でここまでこだわるの?」とよく言われるのですが、それは人生を賭けたこだわりが感動を生み、そこで初めてアートが成立すると思っているからなんですよね。また、ビジネスとしても成功しなくては新しい恐竜を生み出せないので、せっかくアートと商業ビジネスを結びつけるなら一番いい結びつきができるようにとも考えています。
――タイムダイバーで伝えたいメッセージとは。
「生き物ってすごいよね」ということを感じていただきたいです。言葉では表現できない、目を見開くような驚きを感じていただき、生き物を、恐竜を好きになってほしいです。
――最後にDINO-A-LIVEファンにメッセージをお願いします。
これからも大人が全力でフルスイングする姿をお見せできればと思います。
恐竜というコンテンツはどうしても「子どものものでしょ」と言われがちですが、僕はそれがすごく悔しいんですよ。ときにはヘトヘトになってぶっ倒れてしまうこともあるかもしれないのですが、大人が真剣にここまで追い込んで恐竜を表現することで子どもたちが「大人ってすごいよな」「早く大人になりたい!」と思ってくれたら本当にうれしいですし、ON-ARTのフルスイングがきっかけで生き物に興味を持つ人が増えてくださればと思います。
「ディノアライブ・プレミアム タイムダイバー 夏休みスペシャル」、ぜひ観にいらっしゃってください。
「ディノアライブ・プレミアム タイムダイバー 夏休みスペシャル」は、7月23日から8月28日までIHIステージアラウンド東京(豊洲)にて開催。シリーズ史上最多15頭以上の恐竜が出演予定で、初登場の巨大クラゲや空の支配者“翼竜”の登場も予告されています。
座席は目の前にまで恐竜が迫るVIP席(大人1万円、子ども5000円)とバランスよく恐竜たちを楽しめるS席(大人6000円、子ども3000円)の2種類が用意されており、公式サイトにてチケットが好評発売中です。
撮影/苅部太郎 取材・文/Kikka
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